社員の育成

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社員の育成

前回は採用について、「『いい人材』の定義なくして、いい採用なし。いい人材を採用したら、適材適所に配置せよ」と述べた。そして、そのあとで重要になるのが、いい人材を会社に定着させることだ。

私の好きな漫画にジョージ秋山の『浮浪雲』がある。その主人公がいった、夫が妻に対して犯してしまいがちな最大の罪は「退屈させること」だという言葉に私は大きな衝撃を受けた。自分はどうなのか。それからは、妻を退屈させない夫であろうと、日々努めている。実はそうしているうちに、この教えは経営トップと社員との間にも通じると思い始めた。なぜかというと、退屈な職場は、社員にとって苦痛でしかないはずだからだ。

現代社会では働き方が多様化し、「職業選択の自由」という権利をより行使しやすくなっている。能力を高く評価してくれる企業への転職、自分らしさを求めた転職など、転職そのものに対するイメージもプラスに転化した。そんな時代において、退屈な職場では人が定着することなどおぼつかない。優秀な人材であればなおのこと、よりやり甲斐のある職場=刺激のある職場へと移っていく。

では、退屈させない職場とはどんなものなのか。私はその人の能力より少しレベルが上の仕事を与え続け、一つひとつ成し遂げることで達成感を絶えず感じていける職場のことだと考えている。ロールプレーイング型のゲームのように、ある段階をクリアすると、また次の課題が与えられる。その課題をクリアすると、さらに次……。その繰り返しにより常に目標が持て、刺激のある職場になるのだ。
退屈しない理想の職場のイメージ
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退屈しない理想の職場のイメージ

しかし、難度が高すぎると過大な負担をかけることになり、逆の意味で社員の定着を妨げることになりかねない。ポイントは、「やや難しく、でも達成できる」といった、ちょっとした匙加減。その匙加減を担うのは、いうまでもなく上司(管理職)である。部下の能力は一律でなく、個性も、適応能力も、モチベーションもまちまち。それらを見極めながら、それぞれに適度な刺激を与えていく。

いい換えるならば、いい上司とは部下のキャリアアップのシナリオを描く脚本家であり、演出家なのだ。人材育成というと、ついマニュアルに頼ってしまう。しかし、社員はそれぞれ異なる環境で育ち、それぞれに個性があるわけで、オーダーメードで育てなければならない。社員の様子を観察し、時には臨機応変に、脚本や演出プランを書き換えることも必要だろう。そうするためには、高いコミュニケーション能力も上司に求められる。

与える仕事の内容や難度は、おおむね年数に応じたものでいいだろう。仕事を1年こなせば、1年分のキャリアはついていると思うからだ。そして、その経験に応じて価値が高まる。また、バランスシート上の数字には表れないものの、会社の“目に見えない財産”は着実に大きくなっていく。

成果主義を導入している企業が多いが、私は年功序列で構わないと考えている。組織には「和」が必要不可欠であり、中途半端な成果主義で人間関係がぎくしゃくするようでは本末転倒だからだ。

さらに、優れた人材を定着させ、かつ社員のモチベーションを高めるには、賞罰も必要だ。その賞罰には、誰もが納得する公平性が問われる。自分の機嫌や好みで評価する暗君でいるようでは、社員の定着など夢のまた夢に終わるだろう。

と同時に、社員一人一人に対して恩情を持って接する。家族が病気のときには気持ちよく休みを与えたり、仕事が辛そうなときには負担を減らす。そうした気遣いは、「君をしっかり見ているよ。なぜなら、必要な人材だと思っているからだ」というメッセージにもなる。

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