嫌いな仕事

本当の所、彼はこの仕事が嫌いであった。人は物には影響されない。人は人にしか影響を受けないのである。彼には未だそのことが充分理解する所に到達していなかったのかも知れない。しかし探していた。答えを見つけられずにいた。「答えは何処にもない誰も教えてくれない。」と平井堅が唄っている。
それは大きな古時計のおじいさんにも解らない。天国に召されたからだ。
彼も一時期天国に召されることを望んだ時期もあったがその思いは一瞬だった。彼は自分がすごく好きである。だから鏡を見ることが大好きなのである。
　そんな彼は誰にもいえない秘密をもっていた。それは性癖といえるものであるが、決して人前で見せれる物ではなく他言無用のものである。仕事の間中もそれをしたくて我慢できずにトイレに駆け込む事もしばしばある。その性癖は煙草を鼻の穴から吸うことである。しかも２本同時である。鼻の神経から直接脳に染み入る感覚がたまらなく好きなのである。いわゆる変態性の趣味というか他人の理解の及ぶ範囲でない事は確かである。　特に他人に迷惑をかけない範囲の彼の習性なのでそっと見守ってやって下さい。というより無視して頂きたい。
　彼の持つ人徳というか人付き合いの良さがこの仕事を順調にさせていた。しかし本当の所いつでも辞めたかった。朝起きるといつものテレビ番組を時計変わりに付ける。いつものトーク番組が始まる。内容は殆ど把握していない。ただこのコーナーが終わる頃には身支度を終える事だけは日課の如く繰り返すのである。そして出勤し訳のわからん話に頷き、愛想笑いはお手の物彼の頭の中は客の注文を消化し洗い物の片付け仕事の段取りを中心に動いている。しかし客への観察眼鋭く、さわれる物にはどんどんさわる。あたかもおもちゃを与えられた子供のような興味の眼で飽きるまで遊ぶ。しかし飽きっぽいので長続きはしない。それが周りの人間の救いでもある。
　そのようにして彼は今日も客のリクエストに応えてカクテルを作っている。
そう彼はバーテンダー彼の名前は「岸田蛸也」、客からはタコちゃんと呼ばれ親しまれている。この一年後、そんな彼の人生を大きく変化させる事態がおきる。
その話は又別の機会に紹介する。次回は小生風遺品整理　大阪論をぶちまける。