リサイクルショップのドラマ

　小枝子はこの関西に出てきて９年目である。北陸のとある田舎町から集団就職で観光バスのガイドとして６年勤務したのち、広島のリサイクルショップに再就職した２年目１８歳離れた非常勤の運転手との間に子供が出来きたのである。小枝子は半ば関係を強要され断れず関係を続けた上の結末である。相手の事を別に愛していたわけではなかった。北陸の貧しい家庭に育った。父は女をつくり小枝子がまだ４歳のころ蒸発した。母は水商売と半ば売春で小枝子を守り育てた。小枝子は母を軽蔑していた。男達が代わる代わる母を訪れた。小枝子は高校卒業と同時に逃げる様にそこを離れた。
　周囲に結婚を反対された。生まれてくる子を思うと出来ない事となった。２度目の妊娠は半ばレイプが原因であった。小枝子は色白ですらっとした印象で美人ではなかったが男達の評判はなかなかであった。小枝子は特に男好きと言うわけではなかった。母にまといつく男共も母以上に忌み嫌っていたからだ。
心を許した人がいた。彼は心から小枝子の事を真剣に考えた。そんな時結局３年で破綻する。運転手と関係を持ち、彼から離れる事となる。彼との出会いは自身の母との事を含め多大な影響を与えていたが、人生の選択が小枝子の薄幸な人生に拍車を罹けた。
２度目の妊娠は離婚後パートで働いた横浜のリサイクルショップに出入りする業者の社長との間に出来た。弄ばれたである。事の真偽は定かではない。その数年後、小枝子はこのBARと出会う事になる。この事が後の小枝子に大きく影響する。
その店は疲れた小枝子の心を癒すのには充分な存在であった。職場と託児所の往復が続く毎日であった小枝子は疲れていた。そんな時、店で一人の男性客と出会う。会話が楽しかった。小枝子より一回り年上の男だ。いつも酔っていた。ポテトサラダが好きというわけではないが、女将はいつもその客に出していた。小枝子は次第にその客とうち解けていたのだ。そしてその客の向こうに唯一心を許した彼との楽しかった時間を思い出させるに充分な役目を果たした。
そう彼女は自分が行くべき場所を感じさせられていた。離れていた彼に連絡をしたのは春まだ寒さの残る頃だった。「４人で小枝子さん歩いてんの見たよ」。っと小谷がいった事を思い出した。満開の桜が楽しく過ごす４人を見守っていた。秋深まる頃。北陸の実家に彼女らはいた。笑いが絶えない団欒のあと、彼はどうして急に連絡くれたのと聞いた。その話をし出した数分後。BARでは男性客が大きなくしゃみをした。ポテトがはき出され小谷の眉毛に付いたのをマスターは見過ごさなかった。店にとっては何一つ変わりのない夜更けを迎えていた。そして小枝子は確実に幸せの切符を手に入れていた。